研究成果

凸版反転印刷法を用いた短チャネル有機薄膜トランジスタの作製

微細なパターンを高スループットな印刷方法で実現することはプリンテッドエレクトロニクスの実現に向けた重要な課題となっている。本研究では、凸版反転印刷法を用いることでチャネル長0.6 μmまで微細化した印刷型有機薄膜トランジスタの作製に成功し、良好なトランジスタ特性を達成したので報告する。

凸版反転印刷法で作製したソース・ドレイン電極はチャネル長0.6 μmという超短チャネルであるにもかかわらず、エッジが非常にシャープであり(Fig.1 a)、急峻な断面かつ平坦な形状(Fig.1 b)の作製に成功した。そして、この電極を用いて作製したサブミクロンチャネルの印刷型有機薄膜トランジスタ(W/L = 100/0.6 μm)は非常に優れた特性を示した(Fig.2)。

本研究の成果はプリンテッドエレクトロニクス実現に向けた印刷型有機薄膜トランジスタの高速動作化、大電流化につながる重要な成果である。

本研究の成果は第75回応用物理学会秋季学術講演会で発表されたものです。
超薄型フィルム上に作製した全印刷型有機集積回路

超薄型フィルム上に作製した全印刷型有機集積回路

軽量で薄く、柔軟性に富んだ電子素子を大面積に作製することは、安価でウェアラブルなエレクトロニクスを実現するために必要不可欠な技術である。印刷方式はこのような大面積エレクトロニクスを実現する有効な手段となりえるが、いまだ全印刷型で超柔軟なエレクトロニクスは実現に至っていない。

今回我々は全印刷方式によって、超薄型ポリマーフィルム上に有機トランジスタ及び集積回路を作製し、高い電気的特性と機械的柔軟性を実現した。厚み1 μmのパリレン-Cを基板フィルムとして用い、インクジェット及びディスペンサ印刷によって電子素子を作製した。作製したトランジスタは駆動電圧10 Vで1.0 cm2/Vsを超える高い移動度を達成し、また、1 msという高速での駆動に成功した。これらの電子素子は50%に圧縮してくしゃくしゃと曲げられた状態でも特性が全く変化せず、高い性能を保持していた。

これらの成果は全印刷型有機トランジスタの新たな応用分野-例えばウェアラブルな生体センサや折りたためるディスプレイ―を切り拓く重要な成果である。

本研究成果は2014年6月20日付でNature Communicationsに掲載されたものです。

延長ゲート型有機トランジスタを用いたバイオセンサの検討

健康意識の高まりから、簡便に使用できるバイオセンサチップの実用化が求められている。有機トランジスタは、低コストかつ軽量で柔軟性に富み、集積化が容易なため、バイオセンサ開発の有力候補と言える。しかし、従来の有機トランジスタを用いたバイオセンシングは非特異的な物理吸着に基づいた検出が主であり、選択的な生体分子の検出には難があった。我々は、天然に存在する極めて強固なビオチン-ストレプトアビジン間の相互作用に着目して、検出部位に当該相互作用を用いた延長ゲート型有機トランジスタを開発し (Fig. 1)、タンパク質の選択的検出を試みた。ストレプトアビジンを延長ゲート電極に修飾した有機トランジスタにビオチン化免疫グロブリンGを添加すると,その濃度変化に伴うトランジスタ特性のシフトを示し (Fig. 2a)、同様に閾値電圧も変化した(Fig. 2b)。これは捕捉されたタンパク質の正電荷に起因すると推測される。コントロールでおこなったウシ血清アルブミンの添加では、顕著な変化は得られなかったことから、水中に存在するビオチン化タンパク質を選択的に検出できていることがわかった。以上より、当該デバイスのバイオセンサとしての有用性を示すことができた。

本研究成果はApplied Physics Lettersに掲載されたものです

インクジェット法で作製した銀電極を用いた全印刷型有機フリップフロップ回路

印刷型RFIDタグの実現にはメモリアレイから情報を読み出すシフトレジスタ等の有機集積回路も全印刷法で作製しなければならない。しかしながら、全塗布法(印刷法含む)での有機集積回路の報告例は殆ど無いのが現状である。今回、我々はシフトレジスタ等の順序回路の基本となるRS-FF回路を全塗布プロセスを用いて作製することに成功した。
作製した擬CMOS型RS-FF回路の写真をFig.1に示す。作製した回路は、±10~20 Vという低電圧で正常な保持特性を示した(Fig. 2)。
また、出力特性より見積もった遅延時間は、±10 V駆動時は6.42 ms、±20 V駆動時は3.48 msと、全塗布型の集積回路としては、非常に高速に動作していることが分かった。この結果は、回路のパターンの工夫によるトランジスタ特性のバラつきの低減と擬CMOS構成による駆動電圧の低電圧化によるものである。

本研究成果は第61回応用物理学会春季学術講演会で発表されたものです。

銅ナノ粒子インクをSD電極に用いた有機TFTの特性

銀ナノ粒子インクに代わる配線材料として、安価で汎用的な銅を用いた銅ナノ粒子インクが期待されている。銅ナノ粒子は表面の活性が高いため、印刷後に不活性化において高温かつ長時間焼成する必要がある。これらの問題を解決できる焼成法の一つとしてパルス光照射を利用した光焼成が挙げられる。本研究では、熱と光、二通りの方法で焼成した銅電極をSD電極に用いた有機TFTを作製し、特性の比較を行った。さらに、ゲート絶縁膜の最適化や電極表面処理を行うことで有機TFTの高性能化に成功した。 
図1に作製した素子の構造を、図2にTFTの伝達特性の比較を示す。熱焼成した電極を用いた場合、キャリア移動度は0.24 cm2/Vsec、電流on/off比106という蒸着金電極と同等の非常に優れた性能が実現できた。光焼成した電極を用いた場合も、キャリア移動度0.13 cm2/Vsecという優れた特性を得ることに成功した。

   本研究成果は第61回応用物理学会春季学術講演会で発表されたものです。

ゲート電極表面修飾による有機薄膜トランジスタの閾値電圧制御

フレキシブルディスプレイの駆動回路やRFIDタグの集積回路へ応用する際、回路の特性の向上や安定化のためにトランジスタの閾値電圧制御が必要となってくる。閾値電圧制御のために、フローティングゲート構造を用いたり、絶縁膜と半導体界面の改質を行うことが多い。しかし、閾値電圧にとどまらず移動度も変化させてしまうこと、また塗布プロセスの適応が難しいという課題がある。この課題を解決するため、ゲート電極表面の仕事関数を制御することで有機薄膜トランジスタの閾値電圧を制御することを目指した。
 本研究では三酸化モリブデン(MoO3)の水溶液濃度を変化させ、ゲート電極表面に修飾することによって、表面の仕事関数を4.1 eVから5.5eVまで制御することに成功すると同時に、トランジスタの閾値電圧を最大1.4 V制御することに成功した。
 ゲート電極表面の仕事関数を制御することで、金属(ゲート電極)、誘電体(パリレンC)、有機半導体(ペンタセン)の三層からなるキャパシタのフラットバンド電圧をシフトさせることができたため、最終的にトランジスタの閾値電圧がシフトしたと考えている。
本研究の成果を利用することによって、全塗布工程中に閾値電圧のインライン化が期待できる。

本研究成果は第61回応用物理学会春季学術講演会で発表されたものです。

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